ダンスはうまく踊れない
I cannot dance well…
That is because it cannot be made to start it now…



ラジオから、聞き覚えのある懐かしい曲が流れて来る。
懐かしい?そう、懐かしい。この曲がどうして懐かしいのか、あの頃の自分には解らなかった。
自分がどうして旅をしているのか、その真の意味が解っていなかったあの頃…



I cannot dance well…
That is because it cannot be made to start it now…


「ね、クラウド、踊ろう!」
カールした栗色の長い髪をピンクのリボンで束ねた少女が、腕を取って立ち上がらせようとする。
「せっかくのこの村のお祭りだってのに、なんて辛気くさい顔してるの?景気づけに踊ろ。」
旅の途中でよった小さな村、ちょうどその村での何かのお祭りで、広場はにぎわっていた。屋外に屋台がいくつも出て、椅子をいくつも並べ臨時の居酒屋や、ビアホール、そして広場の真ん中には即席のダンスホール。
さっきから村の人たちが、老いも若きもそれぞれパートナーを伴って、くるくると楽しそうに踊っている。

「興味ないね…わ!わ!!エアリス!」
「あのね、女の子が誘っているのにその言い種はないよね、文句言わずに来る!」
持っていたビールのジョッキごと、オレは無理矢理エアリスに引きずられた。
「よお!頑張って踊ってこいやクラウド!ここで断ったら男の沽券に関わるぞ。」
シドが自分もジョッキ片手に、陽気にはやしたてる。

「わー!!いいなエアリス、次はあたしね、あたし!」
「ユフィはんはヴィンセントはんと踊ってきたらどうですか?」
その声でヴィンセントが、思いっきりむせる。
「わ、私とか?」
「あ、そうだよ、ヴィンセント!踊ろ!はやくしなよ。」
こちらも無理矢理引きずっていかれ、シドが笑いながらティファの肩を叩く。
「よっしゃ!ティファ、オレと踊らねえか?」
「あ、私は…」
「いいから、そのあとクラウドと踊ってもらえ、出遅れたんだろう?」

流れる音楽は様々で、人々はそれぞれ勝手に踊っているようだった。
「オレはあんまり、うまくないぞ。」
「別にいいよ、適当で、こういうのは楽しく踊るもんなんだよ、気にしない、気にしない。」

I cannot dance well…
That is because it cannot be made to start it now…



スピーカーから流れる聞き覚えのある曲、思わず顔をあげた。
「あ、この曲なら知ってる…」
「これ、前にミッドガルではやったもんね、ダンスだったらこれだったよね。」
明るく笑うエアリスの手を取り、ステップを踏みはじめる。

I cannot dance well…
That is because it cannot be made to start it now…

知っている、この曲は、たしかこう…

自然、身体が覚えているステップを踏み出した。

The cat is dancing on my foot.…
I am looking at …

「あれ、クラウド…」

微妙な違和感…

Empty looks blue the night of summer when it already grew dark…

「違うよ、足、逆、逆!」
「え?」
言われてあわてた、オレの足は自然に逆のステップを踏んでいる。

「クラウド、逆だってば!」
「ご、ごめん。」

The light of the star which is visible from a window can be seen closely…
Nobody comes here. Furthermore, nobody knows…


ターンしようとして、思いっきりエアリスとぶつかった。

「きゃ…クラウド!」
「ご、ごめん、おかしいな…」
確かにここで、こっち側にターンのはず…だってそう習った…

習った?誰に?



憮然として立ち止まったオレの肩を、シドが笑いながら叩く。
「クラウド、おまえさっきから女のステップで、踊ってるぜ。」
「女のステップ?」
「ほれ、ちょっとオレと踊ってみろ。」

I cannot dance well…
That is because it cannot be made to start it now…


曲が流れる、シドに手を取られ、男同士のダンスを披露するオレ。周りの人々は祭りの余興と思って、笑って見ている。

The cat is dancing on my foot…
I am looking at …


さっきよりスムーズに出る足、そろうステップ、そして思いっきりのターン…
優しく受け止めてくれるのは、翡翠の…

Empty looks blue the night of summer when it already grew dark…

翡翠の…


The light of the star which is visible from a window can be seen closely…

違う…違う…


Nobody comes here. Furthermore, nobody knows…




「どうだ?女のステップだったろ?おめぇどこかで勘違いしてたな?」

「…高かった…」
「あ?」
「もっと背が高かった…」
「クラウド?」

そう、もっと背が高かった。ターンする時に視線を合わせようとすると、見上げるようで…
でも、いつ見上げても、優しい翡翠の眼差しが降ってきていて、オレをしっかりと抱きとめてくれる。

…あれは…あれは…誰だったろう…

「クラウド?」
「クラウド?」
「クラウド?」

オレを呼ぶ、いくとおりかの声、でもその中にオレの求める声はない。


オレの求める声?


胸が痛い…甘くて…痛い…






If independent, it cannot dance well…

スピーカーから懐かしい曲が流れて来る。
今なら解る、どうしてあの時うまく踊れなかったか、どうして自然に女のステップを踏んでいたのか。

あの人をこの手にかけた今なら…

The song is an old nostalgic song…



あれは神羅の創立祭だった。ジュノンの基地の中もお祭り騒ぎで、あの村の祭りの様に、周りには出店やら臨時のビアホール、中央には即席のダンスホール…

「踊るか?」
「え?オレ踊れないよ。」
優しく肩に置かれたセフィロスの手に、オレは戸惑った様な顔をした。
「教えてやるから来い、そんなに難しくはないぞ。」
軽く促す様に腰に手を回され、オレは渋々立ち上がる。
セフィロスがダンスホールに足を踏み入れただけで、周りから歓声が上がる。
解っちゃいたけど、緊張して真っ赤になるオレに、囁く優しいバリトン。
「大丈夫だクラウド、オレの言う通りにすればいい、ほら力を抜いて…」

I attached the dress of fantastic color to the body…
You were doing the highest smiling face…



「2ステップであわてずに…ほら右足から、スロースロー、クイッククイック…スロースロー、クイッククイック…」
セフィロスの言う通りにステップを踏むオレ、見つめる優しい翡翠の瞳。
「そう、上手だクラウド。今度は左から、スロースロー、クイッククイック…」

With a leg near at hand, it moves to the right on the left back…
Two persons dance like water like a wind…



いつの間にかオレは忘れていた、ここがジュノンの基地の中である事も、衆目の羨望の視線の中、踊っている事も。
ただ聞こえるのは、ダンスの調べと、あやす様に、囁く様に、オレをリードするセフィロスの声…
「…次に思いっきりオレの腕の中にターン…」

ターンする時に見上げた視線がセフィロスとぶつかる、甘く優しく、そして熱さを秘めた翡翠の瞳と。
唇に触れる熱い弾力のある感触…
抱きとめられ、降って来た唇を受け止め、オレはその熱に浮かされた様に、踊り続ける。

スロースロー、クイッククイック、もう一度、スロースロー、クイッククイック…

腰を抱くセフィロスの腕が熱い、見つめる翡翠の瞳も、時折降って来る唇も…熱い…

耳元でセフィロスが囁いた。
「…続きはオレの部屋で、オレだけの為に踊ってくれ…」


Two persons dance like water like a wind…
and forget time, and dance the inside of time…


熱い夜だった、熱くて、蕩けそうな夜だった。
二人きりでシーツの上で、踊った夜…セフィロスの腕の中で蕩ける様に踊った夜…
あのまま融けあって、二人融けあって一つに…

セフィロス…セフィロス…

そうすればオレは失わずにすんだのだろうか?






The surroundings of the round table…
which wants to dance a dance well alone tonight…



ラジオから流れる懐かしい曲、隣にいるはずのあなたはいない。
誰も居ない山小屋の中で、オレは一人ステップを踏む。

スロースロー、クイッククイック、もう一度スロースロー、クイッククイック…

Me The dress of a dressing gown and a song are that nostalgic song…

スロースロー、クイッククイック、もう一度スロースロー、クイッククイック…
そして、思いっきりのターン…ターン…



セフィロス!セフィロス!!



受け止めてくれる腕はない、優しく熱い翡翠の瞳もない…それでもオレは…

スロースロー、クイッククイック、もう一度スロースロー、クイッククイック…

スロースロー、クイッククイック、もう一度スロースロー、クイッククイック…

White shoes are worn in the room and the shaking heart shaking shakes in a dream…
Forget night and go to night…

踊れないよセフィロス、踊れない、ターンができなきゃ踊れない。
セフィロス!セフィロス…

If independent…it cannot dance well!
If independent…






I cannot dance well…
That is because it cannot be made to start it now…



懐かしい曲がラジオから流れてくる、オレはダンスがうまく踊れない。最初に教えてもらったのが女性のステップだったから、ステップを変えられない。
どれだけ時が流れても、これだけは変えられない、変えたくない。

「クラウド。」
見下ろすのは優しい翡翠の瞳。
「踊るか?」
笑顔で頷き、オレは立ち上がる、腰に回される引き締まった腕、優しく熱い掌…

You were doing the highest smiling face…
With a leg near at hand, it moves to the right on the left back…



オレは流れる様にステップを踏む、帰ってきてくれたあなたの腕の中で、流れる様に。

スロースロー、クイッククイック、もう一度スロースロー、クイッククイック…
スロースロー、クイッククイック、もう一度スロースロー、クイッククイック…
そして思いっきりのターン…

Two persons dance like water like a wind…
and forget time, and dance the inside of time…



抱きとめる腕、抱きしめる温かい胸、降って来る熱い唇。
「愛してる、セフィロス、愛してる…」
「クラウド…クラウド…」
そのままベッドに倒れこみ、あの時と同じ様にあなたの腕の中でオレは踊り続ける。
熱く、蕩ける様に、あなたの腕の中で踊る。
時を忘れて、二人きりで…

あなただけだセフィロス、オレをうまく踊らせるのは…

帰ってきてくれた、あなただけだ…セフィロス…
だからオレは、ステップを変えない、変えなくていい。
ずっと二人きりで…ずっと二人で…セフィロス…


…wants to dance a dance well two persons tonight…
Two persons dance like water like a wind, and forget time, and dance the inside of time…

                                 


                end

作中詩「ダンスはうまく踊れない」作:井上陽水
英訳:悠希様 「Cogito ergo sun」Thanks!




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