Count Down
それはまさに光の洪水だった、赤、青、黄、紫、ピンク、緑…極彩色の光の乱舞。
初めて見る光と音の競演に、クラウドはなかば呆然と、真昼のように輝くミッドガルの空を見上げていた。

「どうした?花火は初めてか?」
セフィロスが肩に手を置いた、見上げると翡翠の瞳が穏やかな光をたたえている。
「村で見た事はあるよ、でもこんなに大がかりなのは初めて見た、まるで昼間だ。」
クラウドは少し安心して、笑顔でそう返した。

ミッドガル名物、カウントダウンと共に打ち上げられる数万発の花火。いつもは不夜城のごとき輝いているミッドガルのビル群も、この時ばかりはわざと照明を落とし、花火の光がより美しく輝くように配慮する。
神羅ビルの周辺は身動きがとれないため、駐車場から専用の地下通路を通って、2ストーリーも離れた通りに出たのだが、それでも花火は十分に美しかった。テロを事前に塞ぐ事ができ、ようやく帰宅している途中の車の中、いきなり始まった花火に目を輝かせるクラウドのため、セフィロスは路肩に車を停めて外に出た。
中心部に比べると、だいぶ少ないが、それでも周り中新年のお祭り気分一色で、あちこちで「おめでとう」の声、声、声…車道にもあきらかに振舞酒に酔った人が飛び出してきて、徐行のスピードでなければ危なくて、とても運転できない。


「すっごく綺麗だね、セフィロス。」
「ああ、そうだな、こんな風にしみじみと見るのは初めてだが、なかなかいいもんだ。」
「え?毎年見てるんでしょう?」
セフィロスは少し苦笑する。
「いや、今まで見ようとは思わなかった、興味もなかったしな、遠征でいない時もあったが…そうだな、大抵自宅のマンションで一人でいたかな。」
「セフィロス…」
「だからこうして誰かと新年を迎えるのは、初めてだ。」

クラウドは言葉に詰まって、肩に置かれたセフィロスの手をぎゅっと握った。
セフィロスはふっと笑うと、空を見上げながら優しくクラウドを抱き寄せる。
「いいもんだな、安全のために花火の中止を要請したが、これは中止していたらさぞかし市民の恨みを買った事だろう、社長の判断が正しかったという事だな。」
「そんな事ないよ!」
クラウドは食ってかかった。

「だって本当は中止してしまうのが一番安全だったはずだ、万が一テロが防げなかったらここの人達はみんな吹っ飛んでいたんだから!それに社長が中止を拒否したのは自分の世間体のためだよ、市民のためじゃ決してない。」
「クラウド…」
「セフィロスはみんなの命を守る事を第一に考えたんだ、犯人を逃がす事よりも、命を守る事を一番に。」

「命を守るか…人殺しの俺がか?」
少しシニカルに笑うセフィロスに、クラウドは一生懸命首を振る。
「違うよ、セフィロス、違うよ。」
「何が違う?俺ほど人を殺している人間はこの世にはいないぞ、だから俺は『英雄』と呼ばれてるんだ。」
「違うよ!全然違うんだ!!」
どう言ったらいいんだろう、どうしたら解ってもらえるんだろう。
セフィロスは無駄に人命を失うような事は絶対にしない、本当にただの人殺しなら、そんな配慮はしないはずだ、作戦成功を最優先させるはずだ、それなのにセフィロスはそれを自覚していないのだ。
一緒に暮らすようになって、何かの拍子にセフィロスが見せる深い孤独。どこか投げやりのような、どこか自ら全てを拒絶しているかのような…おそらく世界で一番自分を嫌っているのはセフィロスなのだろう。

セフィロスの孤独を覗くたびにクラウドは不安になる。
いつかどこかに行ってしまうにではないか、煩わしい物全てを捨てて、いつかどこか手の届かない所に、『英雄』の名と共に…
セフィロスに教えたい、連隊のみんながどれだけセフィロスを信頼し、敬愛しているか。
ただ殺すだけの『英雄」ならば、だれもセフィロスについて行きたいとは思わない、さっきまでの殺人的とも思われる一見無茶な指示でも、セフィロスの立てた作戦だから、みんな大人しくしたがったのだ。

それなのに『英雄』と呼ばれるたびに、心の深いところで血を流しているセフィロス。
だから、少しでも癒したい、少しでもを慰めたい、それなのに、クラウドはこういう時に、なんて言ったらいいのか解らなくなる。

「違うよ、違うんだ…」
だからただひたすらに『違う』と叫んで、いつしか蒼玉の瞳からぽろぽろと涙をこぼしていた。
「クラウド…泣くな。」
セフィロスが困った顔をする、この金色の髪の少年は、何故涙を流しているのだろう、クラウドが泣く必要は何もないのだ。

自分は人殺し、それは変えようもない事実。そして花火の中止を進言したのですら、損害の規模を考えた場合、それが最良だと判断しただけだ。

爆薬の撤去が済んでから、アジトの襲撃を許可したのも同じ事。
物質的被害と、人的被害を考えた場合、あの切羽詰まった時間のない状況では
犯人の検挙よりも、何を優先させるのが最良か、考えなくても解る事だ。
それなのに、どうしてだろう?
目の前で、ぽろぽろとこぼれる真珠色の涙を見ていると、この街を守ってよかったと思う。

守る?…この俺が…

セフィロスのまとう孤独の影がふっと薄らいだ。

「クラウド、泣くな。新年早々から俺を困らせるな。」
セフィロスは困った顔のまま、クラウドの唇に、優しくキスを落とした。
冷たく柔らかい感触、それはすぐに離れて、セフィロスは笑顔でクラウドに言った。
「新年おめでとうクラウド、今年最初のお願いだ、泣きやんでくれ。」
「セフィロス…」
まだ涙を流していたクラウドは、そのセフィロスの笑顔にようやく少しほっとする。
「もう一度キスして。」
再び振ってくる唇、今度は先ほどより少し深く。
「もう一度…」

キスするたびにセフィロスの唇が暖かくなる、それと共に孤独の影が少しずつ薄くなるような気がして、クラウドは次々にキスをねだった。
段々と深く、激しくなる口づけ、最後には吐息すら奪うように、熱く、熱く…

気がつけば、自宅のベッドの上でキスを交わしていた。
唇どころか、全身余すところなく与えられるセフィロスの熱いキス、それでもクラウドは、もっと、もっととセフィロスにねだる。

「セフィロス…セフィロス…」
「クラウド…クラウド…」
無くしたい、セフィロスを覆う孤独の影を、そのかけらすらこの熱で葬り去りたい。
白い裸身がセフィロスを誘う、望まれるまま、請われるままに、やがて互いの身体がぴったりと隙間なく重なり合い、一つに解け合っても…

「クラウド…愛している、クラウド…おまえがいるから俺は…」

ヒトニナレル…


途中で飲み込まれたその言葉が聞こえたのかどうか…クラウドはうっすらと微笑むと、意識を手放した。




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